FENNESZ : Plays

2曲のみのEPですが、その後の「Endless Summer」への布石となっていた作品といえるでしょう。はっきりいって原曲 (Rolling Stones, Beach Boys) の雰囲気は微塵も残ってないほど解体されたカバーとなっていますが、ゆったりとした綺麗目のメロディーと電子音とが互いの良さを打ち消し合うことなく共存させているのはさすがです。特に「Don't Talk」はギター演奏の断片を加工して組み合わせたような感じで、ひときわ音色の美しさが際立っていて、かなり良いです。

PIMMON : Waves And Particles

(K-RAA-K)3からの「Kinetica」、falltからの「Assembler」や invalidObject シリーズへの参加、 Fennesz や Pita とのコラボなどなど…華々しいまでのリリースをしていながらも、作品自体があまり流通していないのでなかなか耳にすることの出来ないピモンこと Paul Gough。本作は日本のレーベルmemeからのこのデビュー作です。いわゆるテクノイズというのか、電子音の様々な小片で構成されたような作風。 1曲目「etude per.dll」からいきなりハイテンションなハーシュですが、けっして破壊的なノイズではなくこれくらいならぎりぎり普通に聴ける範囲。 2曲目では一転静かな曲調で、電車がゴトゴト揺れるような不思議なリズムに乗って展開してゆく。

SHUTTLE 358 : Optimal.LP

12Kからの99年のデビュー盤。3rd「Understanding Wildlife」からクリックホップ的な要素を無くし、グリッチノイズも減らしたような作品。その分おぼろげなアンビエントが強調されている。グリッチもあるにはあるが、さほど重要な要素ではないような気も。とはいえ、雨音のような1.「Swarm」のアウトロから2.「Slowly in...」への流れがなかなか秀逸です。終盤の3曲もまあまあ良い。

FENNESZ : Plus 47 Degrees 56' 37'' Minus 16 Degrees 51' 08''

TOUCHからリリースされたFenneszの2ndアルバムで、作風は細かいグリッチを散りばめたアンビエント風から歪みまくりのノイジーなものまであるが、基本的に痙攣気味の電子音楽です。ブックレットには1曲毎に小川などの美しい風景写真が収められており、美しい自然をイメージしつつ制作されている、なんていううまいエピソードがあるようなないような…。それにしても5曲目「014」は、立体的・重層的な電子音と突風のごとく吹き荒れるハーシュノイズが圧倒的。息付く間も無いほど密度が濃いです。また、4曲目では途中スパークするような粒状電子音から花火が散る音へと展開するあたりにちょっとばかり風情を感じる。

FENNESZ : Endless Summer

これほどまで泣ける叙情的なノイズ音楽がかつてあっただろうか?渚の情景に走査線を加えたアートワークが示唆するように、 「シセイドー」、「セシリア」 といった曲では永遠の夏を想うメロディーがごく自然に電子音と美しい調和をきたし、 「A Year in a Minute」 でのノイズはいつしかゆったりと満ち干きを繰り返す波のようなハーモニーを描き出す。そもそもギタリストとしての経歴からスタートし、いつしか自然にここへ辿り着いたという Christian Fennesz (確かに海の似合いそうな男です)による、ラップトップの可能性を押し広げた一大傑作。

PIMMON : Secret Sleeping Birds

2羽の小鳥に捧げたという微笑ましいエピソードや、ジャケットのあちこちに描かれたキョロちゃんみたいな絵から察することができるように、過去のいかついテクノイズの作風を脱してずいぶん聴きやすくなった1枚。さすがにジャケ通りの可愛らしい音を期待すると肩透かしを食らうが、独特の音使いに非常に個性を感じる作品です。かなり抽象的ではあるが感情を持った電子音・ノイズと言えなくもない。 1曲目「Want Fly Away」から4曲目まで、小鳥の夢想空間を表現したかのようなややダークで不思議な雰囲気。メロディをひしゃげた 5曲目あたりからややリスナーを振り落とすかも知れないが、実は聴き進めると後半に電子世界上の小鳥の楽園のような情景が出現する。そして、警報のような音が飛び交う9曲目「Peek Spectre」はアルバムの中でもハイライトといえる壮大な1曲であろう。

SOGAR : Basal

初期OVALの作品がもつアンビエント感にも近い電子音響を聴かせる SOGAR のデビュー作。これ以降の作品と比べると音数は少なめでシンプルであり、作品通して平静な雰囲気のアンビエンスを味うことができる。多くのマイクロサウンド系の作品が電子音特有の冷涼感を押し出しているのに対し、丁寧に重ねられるレイヤーへ織り込まれた淡いメロディーによる暖かみのあるサウンドは Sogar の特長ともいえるだろう。特にライブからの録音となっている「dek here」は、繊細なハーモニーが大変美しく、感動的である。

TIM HECKER : Haunt Me, Haunt Me Do It Again

冬の青空を眺めているような望郷の世界観を有するこの一作は Tim Hecker の中でも最も穏やかで感傷的な作品である。トラックは全20曲であるが実際には8曲が切れ目無く流れてゆくという構成で、ゆったりとした時間とともに澄んだ風のように流れてゆくような展開。繊細なメロディは吹きつける風のようなドローンにもはやかき消される寸前で儚くもその美しさは印象深く際立っているのである。ラストのクライマックス「night flight to your heart」といい、そこまでの持っていき方といい実に素晴らしく、数年に一度しか使えない「数年に一度のアンビエントの傑作」という賛辞の表現を用いるにふさわしい一作だろう。

V.A. (Lucky Kitchen) : I LOVE FANTASY

スペインの田舎で気ままにやっているというイメージのあるレーベル Lucky Kitchen ですが、それに相反してかなり難解な電子音作品も多いので注意。特に本作は期待させるアルバムタイトルとは裏腹に、リスナーを試してくるようなコンピ。しかもわずか4曲のみ収録で、かなりリスクの高い1作ではあるが、個人的には1曲目の Aerospace Soundwise は好感触です。ヘッドフォンで深い気流のようなドローンに意識を集中させていると、かすかに色々な音が聞こえて来る幽玄なアンビエント。一辺倒にミニマルではなく僅かながらも展開があるので A.F.R.I. Studios より面白い。なお、2曲目の Evol による動物の鳴き声やら電子音の小片が時々鳴っている極ミニマル作品はまことに不可解であるが、犬だと思ってインドから連れ帰った動物が猫を食ったという付属テキストの話と一応関連しているようだ。

A.F.R.I.STUDIOS : Goodbye If You Call That Gone

アーティストのバックグラウンドなどほとんど不明だが、これもまた Lucky Kitchen の Sparkling Composers Series のひとつ。内容はシンプルなデジタルドローン作品が3曲収録されている。よくいえば深遠であるが、悪くいえば単調なのでついつい早送りしたくなってしまう。 「A1」 は延々と続く重低音ドローン、 「A2」 は緩やかに上昇下降を繰り返すような感じ、 「B1」 も重機が振動しているようなグォーーーンと鳴り響く分厚いドローンの上をキュイーンという音が繰り返される。これといって特に言葉が思いつかない。

FENNESZ : Field Recordings 1995:2002

コンピ提供曲、リミックスなどを集めた企画盤。コンピの曲などはこれ以外にもまだまだあって、非常に活動の幅が広いアーティストですね。目玉は初期のレアなアナログEP「Instrument」のCDリマスタリングでしょう。かなり荒々しいインダストリアルノイズにテクノっぽいブレイクビーツという作風で、どれも初期のものに関わらずなかなか良いです。EPのラストの曲は S.A.W.のようなディープなアンビエントとなっていて、必ずしもノイズだけでない方向性がうかがえます。また、6曲目は Ekkehard Ehlers 「Betrieb」の透き通るように美しいストリングスの素材を活かしたリミックス。その他にもサントラ提供の小曲などは完全にアンビエント寄りな作風です。一方「Surf」のように轟音ギターノイズに飲み込まれるような曲もあり。

SHUTTLE 358 : Understanding Wildlife

ハープ、ピアノ、ボイスといった生音や微細なグリッチノイズがゆったりと流れるアンビエントの中へ溶け込んでおり、どこか遠くを眺めているような虚ろげで夢見心地の気分。ただ優雅なだけでなく冷ややかで電子的な響きや揺らめきも同居しており、さらにレーベルがミルプラトーなだけにクリックホップ的なリズムを刻むロービートも特長としている。いわば Clicks & Cuts 世代の電子音響アンビエントといったところか。本作の中でも最も生音重視でぬくもりのある1曲目 「finch」 が素晴らしいだけでなく、聴き込んで行くと6曲目あたりからラストにかけてがまた面白くなる。

SOGAR : Stengel

時に神々しさすら覚えるような神秘的な輝きと緩やかに流動するフロウが特長的な本作は、 SOGAR の作品中でも最も暖かみがあり、そして強いアンビエント性を感じさせてくれる。シームレスに展開されるアルバム構成もまた魅力的で、全編にわたり穏やかな雰囲気が続いてゆく。その一方で、ある意味終盤のクライマックスとも言える「ST.10」での繊細なメロディーが徐々に激しいDSPの洪水に飲み込まれてゆくノイジーな展開では、臨界点に達した直後至福の時が訪れるという美しいエンディングを逆にひきたてる効果をもたらしている。電子音響・エレクトロニカ・ノイズ世代が生み出した希有なアンビエントとして、最高傑作といえるのではなかろうか。

STEPHAN MATHIEU : Die Entdeckung Des Wetters

3ツ折りの紙ジャケにくっつけた丸型スポンジにCDをはめ込んであるという、凝ってるのか手抜きなのかよくわからないジャケですが、私が今まで聴いてきた Lucky Kitchen 諸作品の中では確実に安心して聴ける一枚です。中身はインターバル的な無音曲を除いて全5曲でやや物足りない気もしますが、インスタレーション用に制作されたというだけあって空間に映える楽曲を聴くことができる。7曲目まではガラス展示会のもので、特に「TOUCH」は透明感ある美麗アンビエントとなっています。ラスト1曲のみ製鉄所でのインスタレーション用で、石炭が高熱によってコークスへと姿を変えてゆく製造プロセスを重厚長大なスケール感で表現しており、そこはかとなく聞こえてくるメロディーのループが幻想的な20分。

TAYLOR DEUPREE : Stil.

目下注目レーベル、12K/LINEの総帥 Taylor Deupree の作品。このレーベルの作品のなかでも特に空間美を意識したつくりで、聴くというより部屋で流すための音といった趣きです。ソフトな浮遊感を有する「Snow/Sand」、あるいは杉本博司「海景」という写真にインスパイアされたという20分超のトラック「Stil.」では冷たい電子音の揺らぎが微少変化をしつつも広大なる大海原のごとく平静さを保ち続けている。一方「Temper」ではメロディアスなループに細かいグリッチをまぶしていますが、全体的には砂や雪、海といった恒久なる自然美を表現したかのような作りになっています。

TIM HECKER : My Love Is Rotten To The Core

一転、かなりノイジーなTimさん。なにしろ VAN HALEN の分厚くノイジーでハードロックなギターサンプルを中心に、ライブの歓声、インタビューのしゃべりなどをコラージュしたような作風なのである。 VAN HALEN がお好きな方が聴けば、ああこのリフは○○か、などといった楽しみ方もあるでしょうが僕は聴いたこと無いのでまったくわかりませんでした。一応EPなので収録時間も短かめ、2枚のアルバムとはまったく違って実験的な作風ですが、たまにはこういうのもかっこよくていいですね。

V.A. (LIST) : MINIMA-LIST

名前や雰囲気が似てるためLINEと混同しやすいレーベルLISTの極北ミニマル集。お目当てだったオープニングの SOGAR の1曲のみミニマルではなく、 SOGAR らしい暖かく美しいメロディー。その他もレビューのネタに、と思って聴き込んでみようとしたものの、あまりの徹底したミニマルの連続にやや食傷気味です。とはいえ可聴範囲ギリギリのロウアーケースサウンドでスピーカーと聴覚の限界に挑んでくる Richard Chartier、鼓膜をマッサージしてくるような低周波・無音・突き刺すような電子音を幾何学的に配置した*0、あるいはその2人のユニット 0/r の作品あたりはかなり興味深い。しかしスピーカーの音量上げて微細音の曲に意識を集中させていると、その後に突如歪みまくりのノイズの曲が現れたりするのがかなり苦痛だったりもします。また、 Komet の曲は正直本当につまらないし、延々続くギターフィードバックのピッチを操作したと思われる Otomo Yoshihide / 2 Guitars は実験的過ぎてつらいです。

DESORMAIS : iambrokenandremadeiambroken

Tim Hecker を介して出会ったという Mitchell Akiyama + Tony Boggs (Joshua Treble) の2人によるコラボレーション。ギター、ドラム、ピアノ、チェロなど様々なゲストによる生音を導入しながらも、それらは徹底的に「assembly and destruction」されており、かなり生々しくデジタル加工の痕跡を残しつつ、それでいて時折メランコリックな一面も見せる。パッと聴き本作で唯一まともに生音が使われた7.が印象的であるが、優しく暖かくスキップしまくる6.や、ひとしきり騒がしい展開が過ぎ去った後の残響たっぷりなギターが美しい1.なんかも大変良い。いくつかの曲では突如たたみかけるように激しいドラミングが入ってきたりもするという壊れっぷりも。

FENNESZ : Live in Japan

2003年2月、東京でのライブを完全収録した日本独自企画盤。ライブ盤といってもラップトップのライブだけに、完成された音のファイルから直で録音されているようで、音質はスタジオ録音に比べてまったく遜色ない。むしろ新しいアルバムといっても良いほど内容が濃い。 かつてないほど複雑かつ壮大なアンビエントノイズの津波が押し寄せる序盤から、波がひいてゆくとともに現れるあのギターフレーズ…。この流れで現れるアレンジされた Endless Summer は感動もひときわ。これだけノイズの層が厚みを増しているにもかかわらず、美しさは衰えるどころか一層輝きを増していることに感嘆です。本作によって Fennesz はさらなる高みに達しているといえるだろう。

MILEECE : Formations

SuperColliderというプログラミング言語によって生成された本作は、柔らかい音使いとかすかなメロディーが心地良いマイクロスコピックなアンビエント作品。滴る雨粒や植物の成長といった自然界の形態にインスパイアされたというだけあって、どこか薫ってくるような穏やかさがある感じ。展開は少ないが一辺倒なミニマルでもなく、特に4曲目 「fern」 ではパルス音の暖かいシーケンスを通りぬけた先に出現する自然界との共生に本作のテーマを見出せる。また、5曲目では本人の声も取り入れられていますが、美人というものは大方の予想通り美声の持ち主であるのが興味深い。なお、ジャケットデザインは Kim Hiorthoy。

PIMMON : Snaps Crackles Pops

電子音一辺倒のテクノイズではない。Tigerbeat6からのリリースということもあってか色々サンプリングを使ったポップなやんちゃエレクトロニカ路線。特に1曲目は変テコ脱力具合がいい味出してるファンキーかつリズミックな曲でかなり面白いのですが、それ以外はよくわからんノイジーなのもあったりして色々遊びすぎ?

SOGAR : Apikal.Blend

前作「Stengel」は暖かなフロウが印象的でしたが、本作はガラスのように透き通った冷涼な質感が際立っており、細やかに乱舞するグリッチノイズがあたかも光の乱反射を思わせてくれる。また、前2作を上回る非常に複雑かつ緻密なプロセッシングが光っており、展開の妙によって多彩な表情を捉えることができます。特にある部分での緩やかに旋回するムードから徐々に形成される美しい電子アンサンブルが突如カオティックに崩壊してゆく展開には、ひときわ目を見張るものがあります。 SOGAR の特長でもあるレイヤーに織り込まれた淡いメロディーがきれいな曲もしっかりありますので、難解で人を寄せつけないミニマルへと偏向しがちな音響・ノイズ系とは相反して耳と脳を優しく刺激してくれる SOGAR の作品は純粋に楽しめます。

SOGAR : Eel And Coffee

2003年1月に行われた京都、名古屋、東京でのライブ音源から抜粋した200枚限定CD-R。やはりSOGARの作り出す音は高度な電子的処理をされながらも優しい情感が感じられる。まず京都クラブメトロでは、穏やかなアトモスフィアに満ちたアンビエントノイズ。清流のようなクリアな流れを思わせます。続いて名古屋はfonicaの音源を使用したよりグリッチィで複雑なDSP。「Stengel」の03のように断片化された短いメロディのフレーズをリズミックに再構築している。一転六本木ヒルズインフォメーションセンター/Think Zoneでは美麗なハーモニーのピュアドローンアンビエントも。3部それぞれに違った魅力のある充実した内容で、SOGARの素晴らしさを再確認した1枚。

STEPHAN MATHIEU & EKKEHARD EHLERS : Heroin + Remixes

ステファン+エックハルドという要人二人のコラボ作品が、リミックス集も同梱してパッケージも新たに再発。新世紀を祝福する花火で幕を開ける本作は、2000年のクリスマスシーズン~年始にかけて録音されたというだけあってハモンドオルガンがメロディアスな祝福ムードの曲から、V/VM的な誰もが知ってるメロディーを泡ブクブクやヒビだらけのエフェクトでいじった曲まで、ユーモア交じりに楽しんで録音された雰囲気があります。逆にシリアスなドローン系の曲も多いが、この手の音では最近の彼らの作品である「Plays」や「Die Entdeckung...」に比べて正直やや退屈な気がする。一方リミックスの方では、5.は Fennesz 好きにはたまらないリミックスです。彼にしては珍しくノイズの要素がほとんど無く、メロウなギターに壮大な雰囲気のドローンを合わせ、ラストには盛大に花火が散るという演出。また、ギターの残響が美しい1. (Joseph Suchy) や、「Herz」のクリック音にパーカッシブなビートを組み合わせたアブストラクトな3.あたりが好き。

TEXTURIZER : s/t

ギリシャのANTIFROSTより、BasicChannel傘下のVibrantMusicからもリリースするcoti k.+チェロ奏者のnikos veliotis による作品。廃墟となった教会にて録音を行ったとのことで、音の響きがかなり強調されており、電子・生音に加え日常音なども混合した重層的なドローンが空洞内を響き渡る。連続する4つのパートから構成されており、a.では弦楽器が延々とグギィーという歪んだエグい音を出し続ける。圧巻はb.で、地を這うような太いドローンの重圧感がすさまじい。

TIM HECKER : Radio Amor

Timさんのホンジュラス旅行記。1st「Haunt Me...」ほど情緒的で澄んだ感じはないにしろ、相変わらずほとんど面影がないほど加工されてアコースティックぽさを感じさせないピアノなどの使い方が良い。あえて耳に残るような美メロになるのを避け、主張しすぎないよう抑えているというか。例えば「i'm transmitting tonight」なんてぼろぼろでひび割れたようなピアノでありながらも逆説的に壮麗であったりも。ノイズ交じりの壮大なドローンも美しく、全体に短波ラジオをチューニングするようなホワイトノイズも絡んでいい味を出しています。

V.A. (12K/LINE) : TWO POINT TWO

いまや人気レーベル12K/LINEから未発表曲のみを集めた豪華2枚組。12Kサイドはエレクトロアコースティック、および踊れない?リズムへのアプローチ。 Sogar(+Uison) のほんのりメロディアスな美麗電子世界も毎度さることながら、12Kのトリ Kenneth Kirschner "June 8,2003" がキた!電子的とも生音的ともいえそうだが不思議と温もりのあるイントロにはじまり、次第にじわじわと浸食してくるような展開をなしてゆく24分間長編アンビエント。このアーティストはありがたいことに音源をサイト上で著作権放棄で公開していますので、ぜひフルで試聴してみてください。一方 LINE サイドの方は物音系ウルトラミニマル~ロウアーケース。きわめて静かです。

V.A. (Raster-Noton) : WELT ECHO

Carsten NicolaiをキュレーターとしたWeltechoというインスタレーションで行われた色々な試みをCD化したもの。CD2枚組でどちらも20分に満たない内容という意味不明な構成。しかし3インチCDというのは日本の昔のシングルCDのようなものかと思いきや、CDの記録部分が3inchで残りは透明になっており、これが特殊なプラスチックケースに入っているという非常にかっこいいパッケージングなのがうれしい。また、実はDisc2がエクストラCDになっており、現場の説明が少しだけ見れる。肝心の音楽は1曲目の Robert Lippok (To Rococo Rot の片方) は美麗な音響にゆったりとしたリズムが重なっていく展開がかなり良い。しかし元は6chサラウンド方式らしいがそれがCDで再現されているのかは不明。あとレコーディングレベル低すぎです。

V.A. (TIGERBEAT6) : GOOD NIGHT - Music To Sleep By

数年の遅れをもって発売された眠りのための2枚組みコンピ。参加アーティスト陣の名前を見れば即買い決定であるが、内容も期待通りといえるでしょう。3曲提供している Stephan Mathieu はもろに「Die Entdeckung...」最終曲の作風もありで嬉しい。同じく3曲提供の Pimmon や Electric Company は、催眠効果のある不思議なループが妙な温さのある個性的な音を聴かせてくれる。 Pimmon はアルバム「Secret Sleeping Birds」とは違って本当にピヨピヨしてて小鳥の夢の中という感じです。 Tim Hecker の14分間の「Indigo Aerial」がまた素晴らしい。「Haunt Me...」での風や空のイメージを強く思い起こさせますが、今回はさらに空間的な広がりを感じます。

BJ NILSEN : Live at Konzerthaus, Vienna

フィールドレコーディング~オルガンドローン~過去の音源などで構成された簡易包装CD-R作品。TouchRadio にてダウンロード可能な作品「Land of Lions」にかなり似ている。

FENNESZ : Venice

Live in Japanをさらにアンビエントな方向へ押し進めたような前半の曲が非常に良いです。時にゆったり、時に激しく、変化をつけながら押し寄せてくるアンビエントノイズ。かなり激しいシューゲイザーもありますが、一貫して感傷的な部分を損なわないのが Fennesz のいいところ。終盤はギター中心となり、轟音ノイズやらほとんどいじってないインストやら色々やってます。ただ、いきなり来るしわがれ声のボーカルはやっぱ違和感ありますね。全体的に Endless Summer ほど斬新ではなく、 Live in Japan ほど極まった感じもないですけど、今のところはそこそこ満足いく出来。

FOURCOLOR : Air Curtain

12Kのサイトで試聴できる「Empty Sky」という曲が溶けそうになるくらい気持ち良いし、実績あるアーティストなのでこれは間違いないなと思った。やはり期待通りアルバム全曲余すところなくアンビエント然とした音であり、数多い12Kの作品中でも最もリラックスして聴けるのではなかろうか。もちろん「Empty Sky」を筆頭に Sogar や Taylor Deupree の持つアンビエント感を推し進めたひたすら優しく美しい楽曲も良いが、「2 Strings」でのグツグツと煮え立つように出現するグリッチノイズなんかも面白い。この曲の後半の展開も神秘的。

JOSHUA TREBLE : Five Points Fincastle

Desormais での「iamborken...」にも近いポストOval的アプローチといえそうな Tony Boggs のソロ。相変わらず雑然としているけど穏やかな雰囲気もあってしっかりとリスニング対応。スキップするギターとかき消されそうな美しい女声が印象的な4.は全然ノイジーではないけどちょっとばかり So を意識させつつ、ゆったりとした生ドラムが絡んでくるあたり新鮮。曲後半での盛り上がり方も良い。また、2.でのぶくぶくとした混沌が次第に力強く一定のリズムを刻むビートへ収束していくあたりも面白い試みである。かと思うと6.ではポヨンポヨンのギターエフェクト物だったり。三部構成で1曲となっているラストの7.もなかなかドラマティック。あとこのレーベルはジャケも独特。

ROSY PARLANE : Iris

吹雪に閉ざされたような世界を作り出す漂流アンビエント。長尺で展開される3曲はどれも移り行く冬山の天候のように変化がある。 Part.1 は比較的穏やかであるがどこか緊迫感を感じさせるような風の中から始まるが、中盤突き刺すような激しい降雨へと変化してゆく。その後、凍りつくように冷たく澄んだ冷気が現れる(これが非常に気持ち良い)。 Part.2 は太陽が顔を出したのか久々に明るみを感じさせ、ガラスやチェーンの音がテクスチャとして溶け込んでいる。Part.3 は弦楽のような重厚な響きの音が吹き付ける吹雪の音と重なり合い、徐々に視界を奪われてゆく… などといった聴き方も可能である。

TAYLOR DEUPREE : January

前作「Stil.」から、新たな方向へと進んだDSP系アンビエント。来日時の東京の積雪にインスパイアされたとのことで、前作同様に氷の粒のような電子音の多重ループが次第に変化していくような作りの冷涼感あるアンビエントであるが、今回は楽曲構造は完全に脱ミニマル化しており、 Sawako の断片化されたボイスなんかも使われていてかなり穏やかなトーンで聴かせてくれる。目の前にダイナミックな情景が広がるような「Shibuya_9」が気持ち良すぎ。何で渋谷なの?って気もするけど。

VLADISLAV DELAY : Demo(n)Tracks

これは凄い。かつてない異次元音響ワールドに圧倒される。抽象的な中音域主体で目立った展開の無い「Anima」に比べて音の鋭さを増してずっとクリアになったためか、未来的なビジョンが見えてくる。ノンストップの1~7では切れ味鋭い硬質なビートが入り組んだリズムを構築する曲や奔放に流れるハーモニーが泣かせてくれる曲などが展開されるが、中でも最もノイジーかつカタストロフィックに崩壊する「kohmeessa alt.」は鳥肌が立つほどかっこいい。現時点での最深地点。なお、「Anima」の最後がトラウマになってしまった方は、今回はさらに注意。

WASHER, ZIMMER AND THE GUITAR PEOPLE : Eat Your Friends

へたうまイラスト満載なジャケットと実際の内容がまったく一致してないところが面白い。以前関わっていた _Radio Magenta ではインディーロック系の音をやってたらしいが、本作でもベース・ギターを用いているものの、ラップトップ~電子音の要素も大きい。2曲目は完全にアンビエントの域であり、壮麗なバックのピアノと風が左右になびくようなグリッチのコンビネーションが意外や Tim Hecker 的な穏やかさも少し感じる。おそらくハイライトであろう5曲目では、芯の通ったノイジーなギター物も。

BJ NILSEN : Fade to White

欧州を旅行した際に各国で録り集めた素材を元に構築されたという作品。 Hazard よりもDSP色が濃厚になった緻密なドローン・ノイズ。「Dead Reckoning」「Let me know when it's over」の2曲がかっこいい。 BJ Nilsen のサイトでダウンロード可能なアウトテイクですら質が高い。

BJ NILSEN & STILLUPPSTEYPA : Vikinga Brennivín

Hazard名義でもよく知られる BJ Nilsen と Stilluppsteypa とのコラボレーション。タイトルは幻覚作用のある酒であるそうだ。幾重にも交錯する音、しだいに迫り来る強風のような音、繰り返し通り過ぎてゆく音、幻聴のように微かに聞こえてくる音、そしてやがて訪れる暖かい平静。ラスト25分は暗く重たいドローンへとブラックアウトして終了。ここ最近の気分にぴったりな、陰鬱な冬の夜のアンビエント。

SHUTTLE 358 : Chessa

もはや絶対的な地位を確立した感のある Dan Abrams。本作ではマイクロサウンドから脱して現実世界へ向かったとのことで、温もりのある音色にどんぶら揺られていくような "logical", "nerf" や、望郷のメロディが美しい "melt" などが印象的である。しかし "blast" がもっとも良い。急流に飲まれていくような感じで、粒状グリッチサウンドの気持ち良さを再確認。ラストの "Scrapbook" は前作で言うところの "finch" のようなアコースティックで明確なビートのある曲。

FENNESZ : Black Sea

2008年時点ではおそらく Fennesz 史上最も静かなアンビエント作品。しかし、静かな中にも緊張感を感じさせる。ドローンを基調としたグリッチノイズが押し寄せる「The Colour of Three」や、より美麗メロディの「Perfume of Winter」が素晴らしい。

AIDAN BAKER & TIM HECKER : Fantasma Parastasie

まず、この二人のコラボであることが重要。そしてジャケ。音も期待を裏切らないアンビエントノイズ+一部アンビエントドゥーム。ゆったりと押し寄せるドローンノイズの波に掻き消されそうになりながらも、儚く美しいギターサウンドが胸を打つ。