WINX : Left Above the Clouds
「Don't Laugh」という笑うに笑えない迷曲で有名なWINXだが、このアルバムにそのようなクラブ受けするトラックを期待すると全くの大外れ。いや、むしろ外れで良かったけど。逆にこのアルバムの魅力はとても多彩で奥が深い。冒頭からある意味クロスオーバーの先駆けともいえそうな、美しいポエトリーリーディングと叙情性たっぷりなギターが織り成すフュージョン。そして人が砂浜を歩いてゆき、扉を開けて中に入ってゆくというイマジネーションを刺激する演出とともにスタートする2曲目、「You Are The One」は本作中でも格別にかっこいい1曲。分厚いボトムと透き通るような高音域に恍惚です。また、本アルバムの魅力として、デトロイトテクノに通じるような美しいシンセとハウスやエレクトロなど多彩なビートのコンビネーションによるところが大きいが、特に「Lifting Rocks For Crayfish」は彼の持つ静的な面が最も良く現れた1曲であろう。細かく刻まれるブレイクビーツに静謐なアンビエンスがゆったりと広がってゆく。同じくアンビエント性の高い「Topfe & Pfannen」ではバンジョーらしき音の断片にブレイクビーツのリズムを刻ませ、後半にはジャズタッチのメロディまで取り入れるという何とも個性のあるアーティストだ。実験性といえば曲間の非常に短い小品などでも、例えばいびきの音や雑踏の喧騒、ガラスの割れる音や電子音、ノイズなど色々用いているところも興味深い。これだけリスニングにも適した音が多いものの、ラストは強烈なアシッドトリップを促すとんでもなくビキビキのブレイクビーツ。しかし、それさえもWINXの個性として違和感無くアルバムへ融和させているところがまたすごい。